
プラネタリーギアBOX
プラネタリーギア導入の経緯
私どもの新製品である「SYSTEMAトレーニングウェポン」シリーズには、今回新たに設計いたしました「プラネタリーギアBOX」を採用しています。
日本語では「遊星歯車」と呼ばれるこの歯車形式は、駆動軸と同軸上で減速をすることが可能なため、複段数の連結により強力な減速比が得られることが最大の特徴であり、電動ドリルのような工具関係で頻繁に用いられます。
今回の採用にあたり留意したのは、ただ単に実銃のロアレシーバーの狭いスペースに収めることを目的とするのではなく、限りなく伝達効率が高く、かつ高剛性なBOXを設計することを目標にしておりましたので、まずその具体策として減速機構のギアの個数を少なくすることを第一の課題といたしました。
つまり、ベベルギア、スパーギア、セクターギアという3個の歯車を可能な限り減らすことで高い伝達効率を目指すというきわめてシンプルな発想を具体化したわけです。

写真をご覧いただければ一目瞭然。従来3軸であった減速機構が、遊星歯車構造をとることで2軸となり従来の方式に比較し、よりコンパクトな減速機構を実現いたしました。
試作では当初3個であった遊星歯車をハイレート・スプリング使用時の高い耐スラスト荷重を実現する目的で4個に設計しなおし量産に望んでいます。
またこの努力により、縦方向・横方向とも、ギア相互の噛み合いにおけるバックラッシュを最低限でとどめることに成功し、結果究極の伝達効率を手に入れています。
それでは、このギアBOXの細部をパーツごとにご説明いたしましょう。
小さなモジュールで丈夫な減速機構を
i 逆転の発想
プラネタリーギアは通常、インターナルギア(内歯歯車)をケースに固定し、プラネタリーギア(遊星歯車)とサンギア(太陽歯車)の間で減速をします。
しかしながら、私どもは逆転の発想でプラネタリーギアを固定し、サンギアとセクターギアに切ったインターナルギアとの間で減速をしています。
このことにより、使用する歯車の同じ歯数比で、より高い減速比を1軸で実現しています。
この方法はかつてない斬新な構造ですが、この構造ゆえに実現するには各パーツの製作に高度な加工技術を必要ともします。
ii 各部の勘合寸法
ギアBOXの内部で精度の高い、安定したギアの回転を得るためには、ギアとシャフトとの勘合寸法が重要です。
今回のギアBOXにおいては、軸受穴とシャフトのすべての勘合寸法にh7勘合を採用しています。
この勘合寸法はすべりを必要とする「隙間ばめ」においては理想とされていますが、非常に高い工作精度を要求されるため、コストの制約で採用されない状況が多いのも事実です。
「理想のためにはコストの制約を最大限に取り払う」ことを理念とするSYSTEMAの流儀の典型的な具体例といえます。
iii モジュールとは
モジュールとは「基準ピッチ円を円周率で除した数値」のことです。
何やら学校のお勉強モードですが、簡単に申し上げると、歯車のひとつの歯の大きさをあらわす単位のことです。
この数値が大きければ歯野大きさが大きくなり、より丈夫な歯車となります。
従来、電動ガンに用いられるモジュールは、伝達系は0.8mmを基本とし、ピストンのラックとセクターギアが1mmでした。
私どもは、SYSTEMAギアの製作過程で、よりノイズが少なく、伝達効率の高い歯車をもとめてヘリカルギアを採用し、ヘリクスアングルを45度とすることで0.5モジュールの高耐久性ギアセットの製作に成功しています。
コンパクトなギアBOXの実現には、より小さなモジュールの歯車セットが必要不可欠です。
今回もヘリカルギアセット製作時のノウハウを全面的に生かし、基本モジュール0.5mmのギアセットを完成させています。
iv 転移歯車の応用
互いにかみ合う一対の歯車間の間隔(軸間距離)に、必要とする歯数比(減速比)の歯車セットを製作しますと、それが標準歯車である場合、単一の歯にしばしばアンダーカットと呼ばれる形状ができます。
このアンダーカットは歯の根元付近が細くなる形状のことで、丈夫な歯車を製作する上で大敵となります。
私どもは、同じ軸間距離上で「転位」という製作技術を用いてさまざまな減速比の歯車セットを製作してまいりました。
この技術を用いることで、今回はこのアンダーカットを可能な限りすり減らし、けいじょうてきにも丈夫な歯車を製作し採用しています。
また、この技術により、もし万が一他社が同じ構造をとったとしても、私どもは私どものみが管理する数値(転移係数)で歯車を製作しておりますので、同じ製法・同じ材質・同じ焼入れ調質を行ったとしても、私どもと同等の精度および強度は得られないことにもなっています。
これは、もちろん従来のSYSTEMA製品も同様です。
v 材質の選定
歯車を製作するに当たり理想とされる材質は、間違いなくクロームモリブデン鋼です。
この材質は、表面は固く組織内部は大変に「ねばる」特徴を有していますので、磨耗を減じ欠損を防ぐ必要のある歯車にはもってこいなのです。
反面、欠点は、以上のような特徴のため切削加工の難易度が非常に高いことと、やはりコストです。
私どもが理想とするのは「決して壊れないギアBOX」です。
セクターギアが、ピストンのラックギアとの接続を断続的に切る構造をとる以上、タイミングのずれは避けては通れません。
しかし、そのトラブルが引き起こすギアBOX全体の破損に起因する「使用不能状態」は、「トレーニング・ウェポン・システム」を標榜する私どもの製品にはあってはならないことなのです。
そこで私は万が一トラブルがおきた際、破損する部分をシリンダーセット内のピストン・ラックに限定し、すばやい交換が可能である構造を採用いたしました。
ゆえに、ギアBOX内部には可能な限り剛性の高い構造を必要としたのです。
この場合においても、コストの問題は二の次。理想とされる材料を躊躇無く選択したことは言うまでもありません。
vi 焼きいれ調質
金属に熱を加え組成を変化させることにより、必要な強度を得る「焼きいれ処理」は、電動ガンパーツを製作する当社のノウハウのひとつです。
特に、前述のクロームモリブデン鋼のように浸炭焼入れが不可能というような材質を用いる場合などはなおさらです。
ここでは実際の焼きいれ指定温度について言及することはできませんが、数多くのトライアンドエラーの後決定された数値は厳格に管理され、製作ロットによる偏差を極小にするための努力の数々も筆舌に尽くしがたいものがあります。
一見すると何の変哲もないパーツ一つ一つにも、SYSTEMAhパーツ製作により積み上げられたノウハウが息づいているのです。
vii ベアリングプレート
今回のギアBOXでは前述のように、逆転の発想によりプラネタリーギアを固定しています。
しかし、ここで問題となるのがこの固定用のシャフトが通常のデザインではいわゆる「方持ち」と呼ばれる、どちらか片方のみを固定する設計を余儀なくされることです。
そこで、私はサンギアの外周つまり歯先円を厳格に寸法管理することで、この部分にラジアルベアリングを挿入し、さらにこのベアリングの外周にプラネタリーギアを支持するシャフトを固定するパーツをデザインいたしました。
このベアリングを支持するパーツを、「ベアリング・プレート」と呼びます。
このパーツを加えることで、4個のプラネタリーギアは、ギアBOXとベアリング・プレート双方で支持され、結果としてセクターギアにかかるスラスト荷重を、その他のギア部全体で受け止めているのです。
デザインとして秀逸であっても、それを製品に反映させるための工作技術が伴なわなければそれこそ「絵に描いた餅」です。
このパーツは90度4分割のシャフト穴といい、ベアリング圧入用のセンター穴といい各部の寸法管理が極めて困難な設計となっています。しかも、使用する材質には強度も必要とされる難削材ですから、完成するために必要な切削加工の技術はまさに「神業」と呼べるものです。
またこのパーツの加工があまりに難易度が高いため、月産の数量に制限があるほどです。
私どもの製品は既知の技術にとらわれない斬新な発想と、それを実現するための類まれなる技術のコラボレーションにより始めて皆様のお手元に届けることが可能になるのです。
viii シャンク長の短いモーター
私どもは歯車による減速機構には、伝達効率にこだわります。
そのこだわりは、今回のシリーズに専用に設計・製作したモーターにも同様にいえることなのです。
このモーターの性能に関する詳細なご説明は次回に譲りますが、今回はこのモーターに使用しているモーターシャフトについてご紹介します。
このモーターを設計するにあたり可能な限り、モーターに取り付けるベベル・ピニオン・ギアの位置をモーター本体に近い位置とすることに配慮いたしました。
理由は、一分間に3満開転(8.4V使用時)以上回転することによる、シャフトのねじれが原因の、伝達率の低下を防ぎたかったからです。
必要な減速比のベベルギアセットでは、シャフトの外径寸法をあげることが不可能であったため、この突き出し寸法を短く設計することには特にこだわりました。
結果として、安定した高回転を実現でき、従来不可能であったベベルギア特有の「鳴き」を激減させるという副次的なメリットも手にしたのです。
ix そしてなによりも重要なこと(ケースの製作)
言うまでもないことですが、ギアそのものの噛み合い精度は、最終的にそれらを収めるケースの精度に倣います。
一般的に、精度の高いギアを製作するよりも、精度の高いケースを製作するほうがはるかに難易度の高い作業であることは良く知られています。
しかし、今回のケースを政策する製造法としてダイキャストを選択した際、ある程度の妥協をせざるを得なかったことは半ば当然なことなのです。
なぜなら、一般的にダイキャストという製造法そのものの精度の限界が3/100mmであるからです。
しかし、日本の製造業は置くが深いのです。つまりギリギリのタイミングでついに「名人」に巡り会ったのです。
その名人によれば、私どもの設計法そのものも精度管理にとっては稚拙なものだったようです。依頼する側ではなく依頼される側の流儀にのっとって引かれた図面により完成された製品は、さすがに芸術的でした。
すべてのシャフトが設計どおりに圧入され、一切の「よどみ」を感じさせずに回転するギアにはじめて接した際は、感動すら覚えたものです。
もうまもなく、皆様のお手元にお届けできるはずです。
x ギアレシオ(減速比の選定)
今回のギアBOXは後述の理由により、あえて一種類のギアレシオしか製作しておりません。気になる減速比は、従来当社のギアセットの「呼び」のうち、スーパートルクアップよりもわずかに低いもので、必要とされる安全マージンは十二分といえます。
結果として、ギアセット固有の回転は限りなく実銃に近く、しかし玩具銃として考えられている一般的な回転数確保のため、9.6Vバッテリーの使用を標準としています。
高電圧のバッテリーを標準とすることで、重量増加によるデメリットを受けますが、銃全体のバランスはきわめて実銃に近い設計となっていますので、取り回しに不都合を感じることは一切ございません。
むしろ、ギアレシオを単一とすることで、煩雑なギアの交換作業から開放されるメリットを重要視いたしました。
また、このBOXには従来SYSTEMAパーツをインストールする上でもっともご質問の多かった、シム調整作業を必要としておりません。
インターナルギアを採用し、プラネタリーギア内部をコンシールド・タイプ(覆い隠す構造)とすることで、グリスの交換サイクルをも延長しています。
回転の始めにはグリスの粘調に硬さを残しますので、一定の「慣らし」が必要ですが、インターナルギア内部で攪拌され潤滑材として機関内部に調和してからは、従来味わうことができなかった低い減速比でありながらウルトラ・スムーズな回転をご堪能いただけます。
こスムーズさは、立ち上がりの感触が重要な「セミオート・ファンクション」時に特に感じることができます。
発展的な使用法(スプリングレートとバッテリー電圧でのチューニング)
SYSTEMA製品である以上、ご購入後の発展性無視することはできません。
しかし、今回の製品は従来の「使用目的に合わせスプリングを選定し、格納するスペースによって制限を受けるバッテリーの能力が決定づけられるため、機関部の安全マージン確保のためギアセットは結果的に選択される」というチューニングの図式を変更いたしました。
まず始めにモータートルクおよびギアBOXの減速比を一定とし、スプリングの交換にはバッテリーの能力で対応するというものです。
スプリングの交換は、テイクダウンピンを押しぬくだけの作業ですから、実銃のフィールドストリップ同様の感覚で行うことができます。
バッテリーに余裕を持たせておけば、数種のシリンダーユニットを用意しておくことで、瞬時にあらゆるシチュエーションに対応が可能となります。
よって、このシステムは実際の使用上、全体としてきわめて完成度の高いものとなっています。
高精度ギアの製作で認められたSYSTEMAが、オリジナルユニットとして始めて世に問うギアBOXの完成度はいかがでしょう。
私どもは、きっと皆様にご満足いただけるものと確信しています。